2009年04月12日

証明 prove 天見四郎2













 俺は誰だったろう。
 そんな事を考えていた。何か注射を打たれたのは覚えている。それから先は曖昧模糊としていた。ただ、それが何度目かといえば答えられない。
何かに答え、何かを拒み、注射。それがエンドレスで続いた気がした
「天見四郎さん、しっかりしてください。化学物質のような粗雑なものに破壊されるくらいあなたはシンプルなんですか」
 天見四郎、自分の鍵となる部分だった。
「天見四郎」
 呟いた。それは殆ど自分では呼ばない名であったが、錨のように重く自分をつなぎとめていた。
「もうポテトもミルクもいらないんですか?」
 揶揄する声。
「誰がそんなこといった」
 声に出した瞬間、世界が出来上がった。
 四郎は辺りを見回した。ホテルのような、きれいな絨毯と壁紙が目に入った。それほど広くない部屋だった。部屋の中は、夜なのか薄暗い。目の前に、簀巻きにされた人間が転がっていた。
「やっとお目覚めですか」
 その言葉に目の前でのたまわっているものに向かい声をあげる。
「小田寿。どうなってんだ。俺、お前を探している連中に追い掛け回されて大変だったんだぞ」
 大量のヤクザに終われ、家にも戻れず、町の中を徘徊したのを思い出した。そして疲れ切った時に、後ろから襲われたのだ。
「どうも僕のしていたことが、彼らのシノギの範疇だったようで申し訳ない」
「申し訳ないで済むか」
 怒鳴ると腹が鳴った。
「ここは?」
「さあ。しかし早めに抜けた方がいいのは確実ですよ。今夜にでも埋める気ですしね」
「なんだって」
 四郎は手の結び目を見た。両手を上げ、結び目を歯で引っ張る。
「脱出する気になったならいいんですよ」
 寿は簡単に縄から手を解いて見せた。
「どうして?」
「ちょっとしたテクニックです。人間何にせよ意識が問題ということですよ」
「早くといてくれ」
「分かりました」
 さっさと寿は縄を解いた。四郎は感覚を確認すべく、手足を振った。少しばかり重いが、痛みはない。
「これで問題なしだ。相手は何人だ」
「今は十人くらいですよ」
「勝てない数じゃないな」
 四郎は笑った。
「戦うんですか?」
「もちろん逃げる」
 四郎はそういって笑った。
 扉の向こうで床がしなる音がした。恐らく相手も自分の出した音に気づいたのだ。四郎は唇に指を当てると、寿は頷いた。
 部屋の扉が開いた。仮借ない拳の一撃。それは一瞬だ。絡め取られ、四郎の身体は地面に転がされていた。
「いた」
 床から見上げるとそこに立つのは日元桜だった。
「だいじょうぶ?」
「助けに来てくれたのか」
「仕方なくね」
 桜は不機嫌そうにいった。その桜の後ろで、前を覗こうというのか、ひょいひょいと頭が見える。その髪の色は自分と似ていた。
「ねえさん」
 その桜の後ろに立つ姿に頭は止まった。桜はそれに気づいて、身体をずらした。
 清原百合涅だった。
「四郎、こんな事して。相変わらず無茶ばかりなのね」
 百合涅は拳骨で四郎の頭を殴った。
「痛」
 そうして殴ってから百合涅は四郎を抱きしめた。
 寿は桜に視線を向けた。
「どうしてここが分かったんですか?」
「親切な人が、天海君があなたに巻き込まれて、捕まってるって教えてくれたの」
「それで助けに。正義の味方なだけはありますね」
「その言い方やめて」
「もうしわけない。では、逃げましょうか」
「二人とも」
 桜の声に、四郎は百合涅から離れた。
「あなた方は、二人は危ないですからね」
 寿の声は緊張を孕んでいた。
「お前たちどうして」
 現れた白服の男は叫んだ。
 桜が男の口を塞ぐ。
「まずいってこういうこと?」
 桜の手が男の首筋に触れるとそのまま動かなくなる。
「こっち」
 桜がいうと、寿は道の一角を指差した。
「こっちの方が見つかりにくいですよ」
 寿を信じて進むとついたのはキリスト教の礼拝堂を思わせる建物だった。
「ここ出口じゃ」
「あいつらが大切にしていものを人質にとろうかと」
 寿は一段高くなった座に飾られている石に向かい近づいていく。
「神聖な品に手を出そうとは」
 礼拝堂の中に数人の男が入ってきた。
 男たちはプロテクター、顔には完全防護のヘルメットをしている。
 その足運びから何らかの訓練を受けているのは分かった。
 それが五人。寿、百合涅は無理。桜と同時に動いても四人が限度だ。
 中の一人が銃を構えている。
「いいっていうまで目を閉じてください」
 寿が叫んだ。
 閃光が礼拝堂を包んだ。照明弾だった。
 四郎は誰かに殴り飛ばされていた。さらに転がったところをもう一撃。床に転がる。
 四郎が転がりながら、寿の声を聴いた。いや声というより呻きか。
 目をあけると桜と百合涅が座り込んでいる。寿を男が捕らえている。そして目の前には男。
 桜に、マイクを思わせる棒が突き出される。
「こっちは大丈夫だ」
 ついで百合涅に向けられる。
「何だこの汚染値は?」
「その石をとるんだ」
 四郎は床をけって飛び上がった。石はあっさりの手に中に収まる。何の変哲もないただのみどりの石だ。
「馬鹿それにふれるな」
 男たちのひとりが怒鳴った。
 自分の中から聞こえたと思うくらい近くで笑い声がした。
「見つけた」
 石が変形したように見えた。その石の上には少女がひとり立っていた。
 どうして、いつの間に、そんな疑問は考えられなかった。その場ひとりが彼女の舞台であるかのような圧倒的な存在感。
「美しき災厄」
「カロン・カコン」
 男たちが声をあげた。
「その名前を知っているなんて珍しい。3Pプランを知っている人間がいるのかしら」
 少女は床に下りた。
「お前は」
 四郎は拳を放った。その拳を受けると、少女は笑みを浮かべた。
「意をしっかり操れるようになったのね。子供の頃よりは楽しめそうね」
 神社の境内で姉を襲ったもの。それが成長した姿なのは直ぐにわかった。
 あれから数年でいかに自分が強くなったか知っている。その上でなお分かることがある。
 こいつの底が知れない。
「かかれ」
 男たちがパラボラアンテナを思わせるものを手に向かい合う。
「くらえ」
 光や音はなかった。だが、はっきりと少女の顔には変化があった。それは苦痛だった。
 少女は力が入らないようで床に座り込む。床に手をつけ、必死に立とうとするが。
「最大放出」
 少女の輪郭が崩れる。
「なんだこれ」
 今まで確実に人間であった少女がただの映像のようにリアルさを失っていく。
「もういられない」
 男のひとりが悲鳴を上げた。桜だった。
 桜の掌底が男をふっ飛ばしていた。そのまま容赦なく急所を狙いもう一人を倒す。
 それは桜の常のスタイルではありえない事だった。
 再びリアルさを取り戻した少女は立ち上がり、桜を見ている。
「ありがとう。あなたにはいつも助けて貰ってるわね」
 少女の姿は薄くなっていく。
「待て」
 四郎に向かい男が殴りかかってくる。その手には長い警棒が握られいた。
「邪魔するな」
 四郎の拳が男の警棒を折った。ようじを折るようにあっさりとしたそれは四郎自身も驚きだった。
 銃声が響いた。誰もが動きを止める。
「県警の山海だ。未成年者略取の容疑で逮捕する」
 刑事と思われる男の声が響いた。
posted by 相会一 at 16:28| Comment(1) | BeforeBabel PANDORA | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
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Posted by ヴィクトリアマイル at 2011年05月04日 06:38
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